#10ギルド・デザイン事務所

JR新宿駅の南口改札―
かつてはここを出るといつも、大きな河にかかる橋の真ん中に出たような感覚になっていました。
左手に高島屋タイムズ・スクエア、ドコモタワー、右手にサザンテラス。
その間に空が水平に広がり、目の前の甲州街道の真下からは、膨大な数の鉄道路線が伸びていくのが見えたからです。
ところが、久しぶりに訪れてみると、向かい側で大々的に工事を行っていました。
線路の上に人工地盤を設け、新駅舎や交通ターミナルを建設中とのこと。
ドコモタワーはもはや尖塔しか見えず、南口の風景は大きく変わりそうです。
絶えず変化していくのは、新宿らしいと言えば、新宿らしいけれど、昔見えた風景も少し懐かしいなあ・・・と、そんなことを思いながら、今回ご紹介する設計事務所へと歩き出しました。

高層ビルの見える方へ少し歩いて、代々木方面へと角を南に曲がり、駅から10分ほど歩いたところに、ギルド・デザインの事務所はあります。
新しく建設された黒々とそびえる代ゼミタワーの隣に建つ、ベージュ色のマンションの1Fのインターホンを押します。

磯村さんは、大学時代からの友人である政本さんとギルド・デザインを共同主宰しています。
二人は普段、それぞれ別のプロジェクトに取り組んでいますが、在学中は同級生であり、同じ研究室へ進み、卒業後最初に入社した会社も同じだったそうです。
手がける建物の種類は木造、鉄骨造、RC造、規模は戸建から集合住宅までと幅広いにも関わらず、つくりあげる空間には共通して、どこか日本の数寄屋建築を思わせるような、凛とした端正な表情があります。

ギルド・デザインの磯村さん

―ここは新宿駅から近くて、とても便利な場所ですね。

磯村
最初は、春に桜がきれいな目黒のあたりもいいなあと考えていたんですけど、偶然、手頃で交通の便も良いこの場所を見つけたんです。以前は荒川の方で事務所をやっていたのですが、そのとき食事をできるお店が周りになくて苦労したので、ここはそういった心配をする必要がなく、とても魅力的に映りました(笑)。

―たしかに、このあたりは美味しいお店には困らなそうですね。
新宿にも代々木にも歩いて行けますし。

磯村
ええ。面白いお店、美味しいお店はたくさんありますよ。でもどういうわけか、こちらに移ってきてからも、結局事務所で食事をとることの方が多いですね(笑)。なぜだろう、外へ食べに行けばいいのにね。

―夜も、近所に飲みに寄ったりはしないんですか?

磯村
お酒は好きですよ。だけどあまり積極的に飲みに行く方ではないです。

―そうなんですか?意外です。
ひょっとして、甘党でいらっしゃいますか?

磯村
ええ、実は(笑)。
実は甘いものが好き、という意外な一面を見せてくれた磯村さん。
特に目がないのはシュークリームだとか。

―休日は何をしているんですか?

磯村
冬になるとスキーに行きます。
最近はうちの愛犬のおかげでなかなか遠出ができなくなってしまいましたが(笑)。
海外旅行も好きですよ。実はこの会社を作る前にも、2か月くらいかけて奥さんと一緒にインドに行きました。

―インド・・・!
はまると何度も行きたくなると言われる、あのインドですね。

磯村
僕はその旅行ですごく印象に残った建物に出会いました。
アーメダ・バードという都市にある、ショーダン邸という住宅です。
設計は、ル・コルビュジェ。
写真では見たことがあったのですが、実物は想像以上に素晴らしくて、感動しました。
ショーダン邸 ル・コルビュジェ(1887−1965)

ル・コルビュジェはスイスで生まれフランスで活躍した近代を代表する建築家。
シンプルで美しく、床と壁によって水平・垂直の構成がはっきりとした作風で、コンクリートの魅力を最大限に引き出した建築家でもあります。
設計した建物や思想は、いまもなお世界中に多大な影響を与え続けています。

―磯村さんがほかに影響を受けた建物や設計者っていますか?

磯村
僕は在学中に出会った先生のおかげで、京都の茶室をたくさん見る機会に恵まれました。そして、そのことがきっかけで数寄屋建築を得意とする会社に入り、そこで素晴らしい職人たちの手仕事を目の前で見れたことだと思います。

コルビュジェも数寄屋建築も、それまでの伝統的な装飾を排し、シンプルで機能的な美しさを追求して、その時代の文化の先駆けとなったという点が共通しています。

―お客様とやり取りをしていて、うれしかったことってありますか。

磯村
そうですね・・・僕の場合、お客様とちょっとした会話の中にうれしいと思うことは多いです。たとえばリフォームをやっていた時、工事中にお客様が、「だんだん理想の家になって来た」と言ってくれたこととか。あとは些細なメンテナンスのことでも、電話をかけてくれる時でしょうか。

―信頼関係って、実はふとした会話ややりとりの中に表れるものなのでしょうね。
では、お客様との家づくりで大切にしていることはなんでしょう。

磯村
住宅を設計する者として当たり前のことだとは思うのですが、建て主さんのイメージや要望を叶えながらも、建物として基本的な部分はこちらが提案していくということをまず心がけています。

―建物としての基本的な部分、と言いますと・・・

磯村
たとえば、敷地がもともと持っている長所、短所を生かしてプランニングすることです。そこに建て主さんの要望を汲み入れて、建て主さんの持つイメージのひとつ上をいく提案ができればと思っています。

敷地の持つ特性を生かしたり、諸条件をクリアしながらも建て主さんの持つイメージを損なうことなくかたちにするギルド・デザインの磯村さん。
その源泉は、たくさんの建築空間に関する引き出しと柔軟性を持ち合わせていることにありそうです。

昨年磯村家にやって来た、ゴールデンレトリーバーのルパン。
磯村さんは、ルパンと暮らし始めてから、人と犬の心地よい室内環境には大きな差があると実感し、今後は人と犬が楽しく生活できる、ひと工夫加えた家のデザインに挑戦してみたい、と話してくれました。