#06関年希建築設計事務所

京王井の頭線、明大前駅から10分ほど歩いた住宅街のなかに関年希建築設計事務所はあります。

関さんは、以前は大手ハウスメーカーの注文住宅事業部で設計の仕事をしていました。
多くのお客様の住宅を手がけ、経験と実績を積み重ねて磨かれたその設計の腕前は、お客様からの評判も高かったそうです。
入社してから20年目を迎えるころ、最初から最後まで、お客様の家の設計に携わりたい、という思いが募り、独立を決心したそうです。

左奥のV字屋根の杉板仕上げの棟と、手前の白い棟を合わせた、コの字型の自宅。
手前の白い棟の1Fが関さんの事務所。道路との間には、種類の違う木々が家を彩るように植栽されています。

そしてまもなく、独立してから20年が経とうとしています。

まずは、ふだん関さんがどのようにお客様と打合せしているのか、聞いてみました。

今までデジカメで撮影したデータをiPadに保存して、それを見せながら打合せしてます。
写真を見せれば、お客さんに一発で理解してもらえるもの。これは本当に便利だよねえ。
トレード・カラーの赤いケースにiPadを入れて、画面をスワイプする関さん。
最近手がけた家や庭の写真を見せてくれました。

―言葉や図面だけではイメージが伝わりにくい時に、自分が前にやったことが写真としてストックされていれば、これほど参考になるものはないですよね。
それにしても、ずいぶんたくさんの木や花の写真がありますね。

ええ。家の設計を頼まれたら、必ず庭もつくるので。

―関さんは庭も設計するのですか?

いいえ、構想はしますけど。庭は、いつも一緒にやっている庭師の方とつくります。

―その方に関さんの思いを伝えて、家と庭、全体を作っているということですね。

ええ。この家の植栽も、その方がやってくれたんですよ。

―道路との間に、さまざまな種類の木が植えられていますね。
なんというか、普通に見かける庭とは、少し違う感じがします。
まるで、そこに自然に生えているみたい。
でも、すみずみまで意識が届いているというか・・・。

その人は、いわゆるガーデニングではなくて、自然の庭を作っていた方なので、たしかにふだん見かける庭とは少し違うと思いますよ。

―庭や植栽、アプローチにきちんとエネルギーや予算をかけると、贅沢な家になるんですね。

そうなんだよね。最後に外構をきちんとやると「塩胡椒が効く」みたいに、家全体のバランスが、もうバッチリになる。だから僕は、最初にちゃんとその分の予算をとっておいてもらうようにしています。普通外構って最後の最後にやるので、どうしても予算を後回しにされてしまうからね。

―素朴な疑問なのですが・・・いつも家を設計するときは庭を含めているということは、関さんに依頼するお客様は、そもそも広い敷地を持つ方が多いのでしょうか?

いや、そういうことではないですよ。たとえば・・・これは都内の狭小地に建てた家の一部なんですが、ほら。

―あ〜、いいですね!
こんな小さなスペースにも楽しさを注ぎ込むと、もうなんかそれだけで豊かな感じがします。

―つまり、庭をつくるというのは、土地と建物の間をうまく利用したり、生かしたりすることも含めているわけですね?

そういうことです。生け花(いけばな)にたとえられます。
千人に同じ材が与えられるのですが、それぞれ花材の良し悪しがあるにも関わらず、同じ人がいい点を取るんですね。
最初はなんだろうってずっと思っていたんですが、ある時、「花材そのものではなく、切り取られた余白の空間の美しさ」が大事だと気づきました。

家もそうかなって思うんです、と関さんは続けます。

変わった形の敷地だったら、逆にそれを上手に利用してしまえばいいんです。
そういうところにこそ庭を作って、見せてあげる。
そうすると、その家にオリジナリティが出て来るんですよ。

―振り返ってみて、ハウスメーカーで培われたことや、良かったと思うことはありますか。

それは、もちろん良かったと思ってますよ。培われたものは・・・そうですね、企業では分業している分、お客様に会う機会が本当にたくさんあったので、その方がどのような嗜好を持っているか、おおよそ検討がつけられるようになりました。

―ハウスメーカーのことを良く知ったうえで、個人で設計の仕事をするようになって特に大切にしていることはありますか。

間取りですね。大手ハウスメーカーは組織力もすごいし、感じが良くて、優秀な営業マンがたくさんいますから、それに勝つには、間取りで圧倒的に優位に立たないとね。

―間取りは、ふだんどのように計画するんですか?

パッと出てくるときもありますが、大抵はそうではないですね。
これは誰でも考えつくだろうな、という間取りはすぐに思いつくのですが、5社のうち4社が出して来るような、そういう案はボツにすることにしています。
僕はへそ曲がりなんで(笑)。

―なんだか関さんの提案するプランが、とても気になってきました・・・
見せてもらえませんか?

「たとえば、これなんですけど・・・」と、ファイルをめくりながら説明してくれる関さん。
この家は道路に面しているのが、南側なんですね。
そうすると、普通はどう設計します?

―よく分譲されている戸建では、必ずと言っていいほど南側にリビングの大きな窓やバルコニーがあるのを見かけると思います。
でもこの家は・・・窓は片流れ屋根の一番高いところと、道路側の壁からセットバックしたところに1つずつ。それ以外、見当たりませんね。

閉鎖的に見えるでしょう(笑)?

―どちらかと言えば。

ご主人にも、最初はそう言われたんです。「せっかくの南向きなのに」って。
中に入ると、こうなってるんです。

―お〜!空が見える。開放感ありますね。それに、上にテラスが見えます。
壁が一枚あると、プライベートな前庭になった感じがしますね。
もしバルコニーや大きな窓を南側だからといって、そのまま道路に面して配置していたら、太陽の光や通行人の視線に直接さらされて、こうはならなかったんじゃないでしょうか。

それから、これは2Fのリビングですが、テラスの先に高めの壁を立てると、そこまで部屋が広がったように感じるんですよ。

―この一番高いところにある窓は、南側の外観写真にあったものですね。

そうです。ここから入る太陽の光が、一日中リビングの壁を動くので、見ていて飽きない、と奥様が喜んでくれています。

きっと夜になると、控えめな月の光が同じような動きを見せてくれるのでしょうね。

―関さんのところに来るお客様は共通点ってありますか?

和の空間が好きな人、かな。
と言っても、お客様は和室を求めて僕のところに来るわけではないんですけどね。

たとえば緑や自然の光をどこかに取り込んだ空間や、それらを眺めることのできる空間を心地よいと感じる、日本人的な感性のことを言うのかも知れないですね。

あとは、食べることとお酒を飲むことが好きな人(笑)。
僕は、食べる場所を一番いい場所にしたいと思っていて。
子どもも居心地がいいからダイニングに居座って勉強するっていうのが、個人的には良いと思うけどね(笑)。

―印象に残っている建物は?

不思議なんですが、僕は基本的に、今とりかかっている家が一番だと思っています。

―それは、幸せなことですね。
では、印象に残っているお客様はいますか?

すべてのお施主様との出会いからお引渡しまでがとても思い出深いです。
先日、70歳近いお客様なのですが、ご主人が夢の中でコンセントの位置を指示していたという話を、奥様から聞きました。

―夢で、新築の家の中をさまよっていたということでしょうか(笑)。
それにしてもその方すごいですね、夢に出てくるくらい、家をイメージできてたってことですよね。

もう最後の家づくりになるだろうから、充分楽しもうって言ってくれて、熱心に図面を読み込んでいました。だからその話を聞いたときは、とても嬉しかったです。
写真左「最近はまっているのは、蕎麦と日本酒」だとか。
写真右 自宅の中庭にある水盤に、白いバラの花が浮かぶ。