#05山岡建築研究所

埼玉県蕨市−。
JR蕨駅(または西川口駅)から歩くこと、20分。
住宅街のなかに、「つくる家」と書かれた看板が見えました。

もしや、あれは山岡建築研究所の・・・?

看板の案内にしたがって少し歩くと、手前に現代的な和風住宅があり、その奥に大小2つの片流れ屋根のボリュームが、前後に並んだようなかたちの白い建物がありました。
前庭のスカイブルーに塗られた小さな壁には、「山岡建築研究所」と書かれたプレートがはめ込まれています。

山岡建築研究所。手前の小さなボリュームが事務所で、奥の大きなボリュームがご自宅。
山岡建築研究所は、山岡良(よし)匡(まさ)さんが主宰する設計事務所で、
ご自宅の前に併設してあり、設計やお客様との打ち合わせは、主にここで行います。

自宅で設計事務所を開いている建築家に依頼するメリットの1つは、なんといってもその作風を実際に体感できること。建築家の自宅には、その建築家の家づくりに対する考え方がエッセンスとしてたくさん入っています。

片流れ屋根でハイサイド・ライト(高窓)がついた白い壁のアトリエには、打ち合わせスペースと、山岡さんのデスク、建築に関する本が並べられた木製の本棚、それから・・・これは音楽を聴きながら仕事されているんでしょうか。CDがたくさん入ったラックと、良い音が出そうなCDプレーヤーがありました。

−明るくて、気持ちの良い事務所ですね。それになんというか、事務所っぽくないというか、堅苦しくない雰囲気がするんですが。

山岡
えっ、じゃあほかの事務所は堅苦しいんですか?

−いえ、そういうわけでは・・・あ、分かりました。CDがたくさんあるからだと思います(笑)。
音楽が好きなんですか?

山岡
ええ。聞くだけじゃなくて、バンド活動もしてます(笑)。アウトドア好きでもあるので、休みの日は、夏はキャンプ、冬はスキーに行って、合間にバンドをやる、という具合です。

山岡さんは住宅の建築家であると同時に、趣味でロックバンドを結成するほどの音楽好きでもあります。ちなみにギタリストだそうです。

山岡
あと、僕は料理するのが好きです。特にサッと作れるパスタや、煮物が得意ですね。
自家製ピザ・マルゲリータ。つくることが子どもの頃から好きで、仕事は料理か建築に進もうと思っていた、と山岡さん。現在も週末になると、家族に料理をふるまうそうです。

―窓から緑が見えて、気持ち良いですね。
そこに見えるのは桜ですか?

山岡
ええ、咲いたあとはさくらんぼができるので、毎年子どもたちとさくらんぼ狩りしてます。

−庭でさくらんぼ狩り!楽しそうですね。

山岡
けっこうたくさん採れるので、近所におすそ分けしに行くんですよ。

−近所と言えばお隣に、素敵な和モダンのお家があったんですが。

山岡
僕の両親が住んでいます。僕がまだフリーで活動していたときに設計した、第1号の家なんですよ。

−なるほど、ご両親のお家だったんですね。

山岡さんのご両親の家は、いわゆる現代和風の住宅なのですが、地面にぐっと腰を据えたような、水平にのびやかなそのかたちが、日本の伝統建築に見られる美しさをきちんと引き継いでいる印象を受けました。

−ここに打ち合わせに来れば、だいたい山岡さんのつくる家の雰囲気が分かりますね。

山岡
そうですね。あとは小さな作品集を作っているので、それを見てもらったり。その中の住宅を実際に見てみたいというお客様がいたら、以前の建て主さんに家を見せていただけるようお願いすることもありますよ。

山岡さんがこれまで手がけた家に住む建て主さんたちは、以前の建て主さんによって紹介される方がとても多いのだとか。それもあってか、新しく家づくりを考えているお客様に家をご案内したいと頼むと、大抵はどの建て主さんも「掃除をするいい機会ですから」と言って、前向きに受けてくれるそうです。

山岡さんが手がける家には、緑があって、のびやかで気持ち良い空間というのは共通している一方で、ひとつひとつの住宅に、遊び心のあるような魅力あるデザインをポイントで必ずどこかに加えています。

−それぞれのお客様に対してのデザイン、ということになると思うのですが、どうやって考えているんですか?ひらめいたりするんでしょうか?

山岡
ひらめくというよりは(笑)、話を進めていく中で、このお客さんはこういうものがあったらきっと楽しいんだろうなあ、と想像するわけですね。たとえばやんちゃそうな息子さんがいたとしたら、激しい遊びが入っててもいいな、とかね。そうすると、走り回れる動線を作ったり、ジャンプできる場所を考えたりするわけですよ。

−お客様と話しながら、その方の性格や趣向を汲み取っていって、それをデザインに変換して、エッセンスとして付け加えるという感じでしょうか。

山岡
そうですね。打ち合わせ中に、この人本当は何を求めているのかな、と観察しています。

―話の中には出てこないような。

山岡
そうそう、言葉の裏を見ようと努力はしてますよ。それでうまく合致したお客さんは、1つ目の提案をすると、だいたいOKをいただけます。うまく読み取れない人は、長引くか、キャンセルになってしまうことが多い。

―OKをもらうか、無くなってしまうか。結構はっきりしているんですね。
山岡さんのところに来るお客様には、共通点ってありますか?

山岡
みなさん、いい方が多いですね。普通の、会社員の方が多いです。特徴的な方は、あまり来ていないと思います。

―年齢層は。

山岡
30代の子育て世代、40代のご夫婦、あとは60代の第二の人生をスタートされるご夫婦が多いですね。

家は落ち着ける場所で、だからそこには緑があって、アクセントに遊びのデザインがある。そんな山岡さんの作風に、30代、40代だけではなく、60代にも共感されるというのは、うなずける気がします。

−山岡さんのデザインは、料理の仕上げにピリッと効かせるスパイスみたいですね。
なぜこのようなデザインの仕方をしているんですか?

山岡
僕はデザインするとき、無理をしないようにしているんです。

−無理をしない。つまり、必要性のないデザインはしない、ということですね。

山岡
斬新でカッコ良くてすごい、というのと、昔の家や建物の持つすごさ、というのがあると思うんですけど、僕は後者に注目していて、「スタンダードの中に気持ちよさのある空間」というのを大切にしたいと思っています。

−昔の建物にある良さに学び、普通に設計するということは、実はとても大切なことではないでしょうか。けれども建築家という仕事はデザイナーの側面もあり、すべての建築家がそのことを重要視しているわけではありません。

山岡
よく美術館に行くのですが、最近賞をとったとメディアに取り上げられるような建物を見ても、あまり感動することがないんです。でも、古い建物−たとえば、アントニン・レーモンドの「軽井沢の夏の家」を見た時は、それは感動しました。

−やっぱり、何かが違うんでしょうか。

山岡
違います。それは、「寸法」なんですよ。

寸法は、空間の仕切り方や、幅に対する高さの取り方として数字で現れてくるものですが、その数字の裏で、人の生活や心理を考えて的確に調整しているかいないかで、思いもよらない違いを生み出すのです。

好きな建築家はいますか、という質問に「日本なら吉村順三、海外ならアントニン・レーモンド、そしてメキシコのルイス・バラガン」と答えた山岡さん。共通して皆住宅設計を得意とする建築家で、天井が低くて、水平にのびるプロポーションが作風の特徴になっています。

無理をしない。
裏を返せば、理にかなったことをする、ということになります。
昔の家や建物が長い時間を経て、今でも受け入れられている理由は、「理にかなっている」ことにあるのではないでしょうか。
普通の積み重ねのなかにこそ、時を超えることのできる「普遍性」が生まれるのでしょうね。