#04spece fabric

中央区日本橋―。
すぐそばを隅田川が流れる都営新宿線、浜町の駅から7、8分歩いたところにあるマンションの一室に、space fabric(スペース・ファブリック)の事務所はあります。
訪れたのはお昼前で、午前中の明るい陽射しが、白い壁の部屋の中にあふれていました。

事務所にいらっしゃったのは、代表の東(あづま)信洋さん、共同主宰者であり人生のパートナーでもある東美紀さん、そして若手の女性設計スタッフである川合さんの三人でした。
space fabricは、もともと大手建設会社で設計の仕事をされていた東さんが、住宅設計をメインに手がけていきたいと事務所を立ち上げたのが始まりでした。そしてその約半年後に、東さんと同じ会社で同じく設計の仕事をしていた美紀さんが入所しました。

―このあたりは東京駅も比較的近いのに、静かですね。

以前、半蔵門線沿線に住んでいたことがあって、その沿線に事務所を開こうと考えていました。設計事務所っていうと、たとえば『港区』というイメージが僕の中にはあったので(笑)、当時の半蔵門線は渋谷―水天宮前間を走っていましたから、最初は渋谷をはじめとした西側のエリアを拠点にしようとしていたんです。でもあるとき、逆側の水天宮前の下町っぽい雰囲気が良いなと思って。東京の「東の建築家」をめざすのも面白いかなと。

実は出身が東京都中央区で、現在自宅もこのあたりにあります、と東さんは教えてくれました。

すぐ近くの人形町には、美味しいお店がたくさんありますし、最近は子どもの友だちの親御さんが知り合いで増えてきたので、土着化が進んでいます(笑)。

日本橋人形町は、オフィスや飲食店、住居が混在する、歴史の古いエリア。老舗店舗も多く活気がありますが、賑やかすぎるということもなく、治安が良くて住みやすい環境だそうです。

―なるほど、とてもローカルな感じが伝わってきますね(笑)。
 お休みの日はどんなふうに過ごしているんですか?

僕は休みの日も平日も走っています。はじめは、隅田川沿いのウォーキングからスタートしました。

―気持ちよさそうですねえ。

とくに朝走ると、頭がスッキリして気持ちいいんですよ。そういえば、スタッフの川合も最近走り始めているみたい。

正月の運動不足を解消するために走り始めたそうですが、その年の12月にはホノルル・マラソンに出場。それ以来、習慣的に走るようになり、東京マラソンにも1度出場したことがあるそうです。ちなみにランニングのBGMには、いきものがかりをよく聞いているのだとか。

走っているとき、目に入ってくる景色に建物があると、自然と観察してしまいます。アイディアが浮かんだりすることもあります。

―いわゆる「ランナーズ・ハイ」っていうやつですね。

でも走っていると忘れちゃうので、ペンとメモ帳を持って走りたいくらいです(笑)。

―息子さん、やんちゃそうな笑顔がかわいいです。

今、小学校2年生です。休みは一緒に遊んでます。レゴとか鉄道とか、とにかくつくる系の遊びがすごく好きみたいで、放っておいてもひとりで勝手にやりはじめます(笑)。あとは、トレッキングを始めたいなと思っています。ときどき山のきれいな空気とか景色に触れたくなるんですよね。建て主さんとキャンプに行ったこともありましたよ。

―引き渡し後もお付き合いされているんですね。

ええ。最近は、こちらから連絡をとるようにしていこうと考えているところです。連絡をとらないとどうしても疎遠になってしまうので。

―印象に残っているお客様はいますか。

大学の教授をされていて、僕と同学年だった方がいます。

そのお客様は、すでに10社以上の設計事務所に相談をしていましたが、依頼先を見つけられないでいました。ある時ひとづてにspace fabricのことを知り、相談にやって来ます。後日、正式に依頼を頼まれた東さんがその決め手となった理由を聞くと、「ヒアリングしながらスケッチをおこしていた姿を見て、ピンと来たから」と答えたそうです。

―建築家らしく見えたんでしょうね(笑)。

とても印象的なお客様です。それから大学で先生をされているだけあって、とても勉強熱心な方で、最初は建築の素人だったのに、最後のほうはこちらも驚くほど専門的なことまで詳しく知っていました。

―東さんに依頼されるお客様の共通点ってあるんでしょうか。

いろいろな方がいらっしゃいますが、やわらかい感じのひとが多いかもしれないですね。

そう言われてみると、space fabricの作品は、共通してどこか柔和な空気感をまとっています。ひとがモノを選ぶとき、その方の考え方や価値観とモノの性質の間には、なにか通じるものがあるのかも知れませんね。

いい結果になっていることが多いのは、たとえばHPの作品写真を見て来てもらえた方です。イベントに出展しているときに直接話をしたり、作品集を見ていただいた方というのもそうです。反対にうまくいかなかったのは、人からの紹介とか、一級建築士事務所だからというだけで来られた方ですね。

お互いにイメージしていたものが違っていた・・・それは、依頼主と作り手の双方にとって、不幸なこと。そうならないためにも、事前に興味のある建築家の作品を見たり、あるいはその人柄を知るために、イベントなどで直接話をする機会を得るのは、建築家との家づくりに必要かつ十分な条件だと言えそうです。

―建て主さんとのやりとりのなかで大切にされていることは何でしょう。

理想の家への要望というのは、それまで住んできた体験から出て来るものです。でも、これからつくろうとしている家や暮らしは、本来そういったものから解き放たれていいと思うんですね。だから、建て主さんの要望を聞くときは、特に具体的に言われた場合、その言葉の本質的な意味を汲み取るように心がけています。

―要望を、ぐっと引いて見るということでしょうか?

そうすることで、いろいろな暮らし方を受け入れてくれたり、発見させてくれるような、懐の深い家をつくることが出来ます。だから理想の家のイメージは、実はできるだけざっくりと、抽象的なままにとどめておいてもらったほうが設計しやすいのです。実際、良い結果になっています。

―そういう懐の深い家というのは、実際に暮らしてみてから良さがじわじわと分かってきそうですね。

そうですね。住み始めて何年か暮らしてもらってから、やっぱり依頼して良かったです、と言われることはありますし、そういうときが僕は一番うれしいです。

肩の力が抜けていて、軽やかな雰囲気の東さん。設計の仕事をするときも、自然の流れに敢えて身を任せている部分があると言います。

柔道みたいに、相手の踏み込んだ力を利用して、相手を投げ飛ばす、という意味なんですが(笑)。状況の重力を利用するようなやり方で、いい着地点に持っていければいいなあという思いで、いつも設計しています。
「周りの力で思いもよらない進化をすることもありますからね・・・」と考えていることをさらさらと絵に描きながら話す東さん。

自分でこうだ、と決めてしまわないで、いろいろな人との出会いやシチュエーションを楽しむ。そんな柔軟さが、東さんの魅力であり、space fabricの作品の空気感を生み出しているのかも知れませんね。

家についての要望やイメージがある程度決まってきたら、あとはパートナーである建築家に任せてしまうというのはどうでしょう。
気持ちを軽くして楽しんでしまえば、想像を超える家ができるかも・・・!