#03L_DESIGN建築設計事務所

東京都練馬区、西武池袋線の大泉学園駅で降りて、徒歩8分。
住宅街をほどなく歩いたところに、L_DESIGN 秋さんの自宅兼事務所はあります。

到着すると、ちょうど秋さんが家から出てきたところでした。

事務所は地下階にありますが、この日はインタビューということで、ふだん打合せするときに使っているという自宅2Fへ。

中庭を通り抜けて玄関に入り、廊下を進むと、家のちょうど真ん中あたりに来たところで上からスッと下りてきたよう階段がありました。上ると、目の前に青空が広がっていて、展望デッキに上がっているような不思議な感覚がしました。

写真では見たことがありましたが、こんなに窓が大きいとは。

奥様
この窓と天井を見て、秋の家はでかい!とか言って、息子の友達がしょっちゅう遊びに来てます。リビングでぎゃんぎゃん騒いでいても、主人はダイニングで淡々と仕事してますよ。
回りまわって、秋のお父さんはいつも家にいて、実は無職らしい、と人づてに聞いたこともありました(笑)。

片流れの勾配屋根に、大きなハイサイド・ライト。そして壁のないひとつながりの空間を、中央にある階段がゆるやかにダイニングとリビングを分けています。広さは都心では標準的な約30坪だそうですが、スケールの大きさがあります。

そんな空間だからでしょうか、ふだんは生活の場であるはずなのに、ここは打合せをしていても違和感がありませんね。

打合せはいつもここでしますよ。実物を見てもらうのは、やはり一番のプレゼンになりますし。

秋さん自身もあまりオンとオフを意識せず、自然体で仕事をされていそうな雰囲気が伝わってきます。

たしかに休みと仕事には意識的に境目をつけたりしていませんね。体を動かすのが好きで、普段から近所や公園をジョギングしたり、あとは息子がサッカーをやっているんで、見に行ったりしています。あ、でも最近、僕がプレーについていろいろ言うからか、出入り禁止になってますが(笑)。

建て主さんとのお付き合いは続いているんですか?

続いていますよ。1年に1回くらい、飲みに行っています。建て主さんが美味しいお店の多い街に住んでいたりすると、次はここに行こう、あそこに行ってみようってなって。なんだかんだと続いています。

じゃあ、建てるたびに飲む回数が増えるわけですね(笑)。
印象に残っているお客様はいますか?

8年くらい前に、中野に建てた家のお客様が世界的に有名なダンサーの方で。あるときその方のブログを何気なく見たら、ちょうどその日に海外から帰ってきたみたいだったんです。そこには、世界の有名なホテルに泊まったけれど、秋さんのつくってくれた自宅にはかなわない、と書いてくれていました。日常のふとしたときにそんなふうに思ってくれたというのが、うれしかったですね。

生活している延長線上で、本当にリラックスしていられる時間が持てる。家はそれでいいと思う、と秋さんは言います。

家って、究極は巣なんですよね。動物として、安全で身を守れて、あったかい巣だということが基本。僕は、家として大切なことは、まず構造の強さ、次に温熱環境、その次にデザインだと考えています。

デザインは3番目だという秋さんですが、冒頭にも説明したように、手がけた空間には、体感した人を惹きつける特徴と魅力があります。
秋さんのいう、デザインってどういうことなんでしょう?

景色を切り取ることです。それから空間の質だったり、素材やディテールだったり。この順番で、コストとからめて調整をしています。

では、景色をどう切り取るかがデザインのなかで最も大切ということになりますね。

そうですね。だってどんな高価なインテリアや設備よりも、ここに青空が見えるほうがずっと豊かだと思いませんか?僕は自然にかなう素材はないと思っていて、究極を言ってしまえば、つくりこむことではなくて、そこにある自然の景色をどれだけ生かして家にとりこむことができるかなんです。
大きなハイサイド・ライトからは、日が沈む前の空が見えました。
上の方は深い青、下の方はまだ昼間の明るさを残した水色に近い青。
ゆっくりと雲が流れます。

でも、どうして空を切り取ったのでしょう?

目の前が海とか森が見えるのであれば、そちら側に窓を切り取って借景するけれども、なかなか都市部ではそういう状況はありません。特に都内だと難しい。

なるほど。それで空なんですね。

それから都内は法的規制も厳しい。でもこのハイサイド・ライトは斜線制限をクリアするために屋根を片流れで勾配させて、高さのギャップが生まれたからできたんですよ。

最高部分はふつうの二階建てよりかなりの高さがあり、そのおかげで隣の家は屋根しか見えません。

都心では、開放的であることと同時に、プライバシーが守られた家を考える必要があります。そうすると、こういったハイサイド・ライトや、玄関を入ってくるときに通った中庭という方法がおのずと浮かび上がってくるわけです。

L_DESIGNの秋さんは、コートハウス(中庭のある家)を基本コンセプトに、これまでに100件以上もの住宅を手がけてきました。
そのプランは家族構成や、敷地条件、コストに合わせて調整されますが、秋さんがつくるのは、あくまでコートハウスです。なぜ、コートハウスなのでしょうか?

都心に住む家を考えた先に行き着いたのが、この住み方でした。この家もコートハウスですが、僕は自分がいいと思っている家をお客様に提案しています。また、それをいいと思ってくれたお客様がうちに来ていますね。

秋さんの手掛けた住宅が中古物件として販売され、内覧会が開かれたこともあるそうです。実物を見たお客様のなかには、その中古の家を欲しかったけれど購入できなかったから、と後日新築を依頼された方もいらっしゃったそうです。

いまのひとが戸建て住宅に求める良さって、これがいい、ではなくて、これでいい、だと思うんです。

以前は、建築家に家づくりを頼むことは、夢を具現化することだという風潮がありましたが、これからは、それほど非日常的なことではなくなっていこうとしています。

すごい家、建てたんです、というのではなくて。もっと佇まいとして落ち着いていて、本質がそこに在る、そんな家を欲しいと思っているんじゃないでしょうか。
たとえばある服飾雑貨のセレクトショップの幹部と話す機会があったのですが、渋谷や原宿にも店舗はあるけれど、一番売れている店舗が、実はアウトレットだったというんですね。

このことが示しているのは、機能やデザイン、使いやすさなどを含めたモノとしての価値とコストのバランスが、ユーザーを動かしているということ。

建築にもあてはまると思うんです。その方法として、僕はフルオーダーとスケルトンの2つのチャンネルに分けることを以前から考えていました。

秋さんは、“素箱”という企画×規格型住宅のプロジェクトに4年前から取り組んでいます。
生活の心地よさを真剣に求めながらも、こだわるところを見極めて必要十分な家づくりをしたいという建て主さんのために考えたそうです。

工業製品だと、つくればつくるほどミスがなくなって、品質が上がり、価格が下がる。それなのに建築は、そのサイクルがうまくいっていないんです。設計事務所だから、一つ一つプランを描いて、受注生産です、で来てしまっている。日本は工業先進国なのに、おかしな話ですよね。でも僕は、そうではない発想も建築でできると思っています。

家は日々暮らすもの。長く住みやすい家をつきつめると、余分なものがない、シンプルな器にたどり着く。バリエーションは、実はそれほど必要ないのかも知れません。